嬉野温泉「八十八」

ryokan 2023.10

佐賀県 嬉野市

嬉野温泉「八十八」

Task

総合プランニング/コンセプトワーク/建築基本設計/空間アートデザイン/インテリアデザイン/ロゴデザイン/内装・意匠設計 /サインデザイン/レストラン器デザイン/室内着・制服デザイン/販売ツールデザイン /家具・備品コーディネート

うれし、うるわし、茶とかけ流しの湯宿

嬉野温泉「八十八」嬉野茶とかけ流しの湯に特化する

茶農家が多い嬉野は、春先になると茶畑に小さな芽が出始め落ち着かない日々が続きます。立春から八十八日目の八十八夜は一番美味しい茶葉が取れる大切な日です。そして、末広がりの八が重なる縁起の良い日です。お茶を愉しみ良いことが重なりますようにと「八十八(やどや)」と名付けました。
嬉野温泉は、浸かるだけでつるつるすべすべになる三代美肌の湯として知られています。「茶と温泉」。この二つの特徴に絞り込み八十八の業態名をコンセプトそのままに「うれし うるわし 茶とかけ流しの湯宿」としました。茶については、有機栽培の農家さんと協業する形で、オリジナルのお茶を商品化し、館内でお茶を振る舞うセレモニーをしてもらうことにしました。お茶の味や歴史など体験を通して知ってもらうとてもいい機会をつくることになりました。このような協業する仕組みが地域を活性化する新しい旅館の企画だと思います。
温泉については、二つの源泉に恵まれたことから、全36室を源泉かけ流し温泉付き客室にすることが可能となり、日本でも珍しい希少価値の高い湯宿になりました。

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嬉野温泉「八十八」設計主旨 嬉野景を愉しむ館

嬉野温泉の中心地に近く、古くから地元で愛されてきた神泉閣という温泉旅館の跡地に八十八は計画されました。道路と住宅と遊歩道のある小山になった公園で三方囲まれた細長く高低差のある敷地でした。建物の形と配置はこの敷地のマイナス条件から生まれたものでした。いずれの客室においても温泉風呂の視界を遮ることが設計とデザインの条件となりました。母屋と呼ぶRC造の4階建ての建物が奥手に控える木造の離れ棟を遮蔽する役割を果たしています。母屋棟への導入は、前施設に残されていた敷石を用いた車路から、茶の木の植栽を通り、緑青葺きの大屋根の車寄せへ向かいます。車寄せには、緑の八十八のマークが白く染め抜かれた大きな暖簾がかかり、その下には茶畑をイメージして組み込んだ古瓦が緑色の洗い出し小叩きとなっています。エントランスは、「嬉野景」というテーマで構成しました。嬉野の茶畑には噴火で落石した巨石がところどころにあり、その印象がとても強く残っていました。火山がつくった水捌けのよい土地でいいお茶は育つという立証を見た気がしたからです。そこで敷地内にあった庭石を巨石に見立てて、エントランスが完成する前に設えました。その周りを古瓦で囲むように嬉野の茶畑と海を表現し、茶栽培に必要な朝露を銀と金と白の釉薬で焼いた滴型の陶板を巨石の上に設らえました。玄関踏み込みにも「嬉野景」をデザインし織り上げてもらった鍋島段通を敷きました。このように、お茶の色でお客様を包みこみ、茶を育てる風景「嬉野景」をデザインエッセンスとしました。
母屋棟と離れは、別の世界観を楽しんでもらうためにも渡り廊下で繋げています。構造としてもRC造と木造ですので、自ずと異なる雰囲気を作っています。離れは「内向きの愉しみ」がテーマです。外界と遮断することで、より内部への関心が増す仕組みをつくりました。流水と藤棚と四季の和花がある中庭を囲みつつ雁行する珪藻土の廊下。廊下にはそれぞれに異なる変り格子の建具を、各客室のアルコープに有田の作家の香炉が飾り、小さく曲がりながら歩く速度を変えつつ景色を愉しむ、そんなことをイメージしました。離れ客室はおおよそ100m2とゆったりしており、さらに庭があることでより広がりとともにプライベート感のある客室となりました。木造ならではの矩形をシーンを変える面白さにつなげられたと思います。
この八十八で最も特徴的なことは、ホテルのような大胆なスケール感を優先するのではなく、手が届くほどの身近な距離感をつくることだったと思います。人とものとの程よい間隔がお茶に絶えず親しめる温かみのある空間に繋げられたと思います。

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深いブルーから明るいブルー、そしてグリーンまで変幻自在に色を変え、宝石の如く光り輝く支笏湖ブルー

嬉野の名産は嬉野茶です。冬は気温0から10℃、夏は23から30℃の比較的穏やかな気候に恵まれています。周囲を山地に囲まれている事から、日中と夜間の寒暖差があり、お茶の生育に適した環境です。「うれしの茶」の中でも特徴的な茶は、玉緑茶(たまりょくちゃ)です。 日本茶の中では珍しい独特の丸みを帯びた形状から、そう呼ばれています。一枚一枚が丸く緑茶の艶が深く、香りや旨みが強いという特徴を持ち、急須の中でゆっくりと開きながら旨みを抽出していくため、味や香り、旨みの移り変わりを楽しめるお茶です。八十八では、うれしの茶を軸に企画を展開しました。

ロゴマークは、ターコイズのブルーの積層と縄文からアイヌへと続く祈りの文様をイメージ

「八十八 やどや」由来
茶農家の多い嬉野の暮らしは、春先に小さな芽が出始める時から落ちつかない日々が続きます。立春から八十八日目の八十八夜はもっとも茶葉がおいしくなる大切な日です。そして末広がりの八が重なる縁起の良い日です。八十八夜にあやかり、茶を愉しむ宿として嬉野 八十八(やどや)としました。
マークは、繁栄を意味する七宝紋のように四方に茶葉をまわし、中央に茶葉の新芽を十字に描き「八十八」の家紋としました。

嬉野温泉「八十八」  

全室かけ流し露天風呂付き客室36室。客室は、庭付き特別室の別邸12室と母屋24室の構成です。嬉野の温泉街にある細長い敷地に、絶景は求められないことから、別邸には、中庭を設け回廊型の木造平屋としました。別邸と母屋は渡り廊下で繋ぎ、世界観に変化をつけよりプライベート空間を大切にし、母屋は効率的な動線で効率化をはかりました。嬉野は、中国からお茶が伝道されたこと、長崎が近いこともあり、異国文化が混じり合っているように感じられます。和風様式にこだわることなく時代感のある折衷要素として取り入れることにしました。前施設の旅館に残されていた古瓦、建具、装飾品などもその折衷デザインの面白い要素になってくれました。

  • 全室かけ流し露天風呂付き客室36室
  • 客室は、庭付き特別室の別邸12室と母屋24室の構成
  • 前施設の旅館に残されていた古瓦、建具、装飾品などもその折衷デザインの面白い要素になってくれました
嬉野温泉「八十八」  

「嬉野景」エントランス
嬉野の茶畑には巨石がところどころに転がっています。古代の火山の噴火の光景そのままなのだと感じました。それゆえに土壌も水捌けが良く茶の栽培に向いているのです。朝には霧が茶畑を覆い、茶葉に旨味を与えてくれます。そんな光景を「嬉野景」とし、エントランスに表現しました。敷地にあった巨石を設え、まわりには古瓦で茶畑と大村湾を描き緑色にした洗い出しで仕上げました。巨石の上からは、茶畑に降る朝霧をイメージしたしずく型の陶板を吊るしました。
玄関には、この「嬉野景」をデザインし織り込んてもらった鍋島段通を敷きました。

  • 「嬉野景」エントランス
  • 敷地にあった巨石を設え、まわりには古瓦で茶畑と大村湾を描き緑色にした洗い出しで仕上げました。
  • 玄関には、この「嬉野景」をデザインし織り込んてもらった鍋島段通を敷きました
嬉野温泉「八十八」  

嬉野景の作り手
茶畑の中のどんとした存在感の巨石が嬉野景の象徴となりました。
・日田市の左官、原田進氏とエントランスに巨石のまわりに古瓦を並べて、緑色の洗い出しをつくります。嬉野の茶畑と大村湾の波を表現します。
・武雄市の陶芸家、山本英樹氏に茶畑に降る朝霧のしずくを依頼。白、銀、金、黒の釉薬を使い分けてもらいました。
・嬉野景のオリジナル段通をつくります。300年余の歴史を持つ鍋島段通。佐賀市にある鍋島段通、吉島家に依頼しました。嬉野景の原寸大のデータを作成し、色糸を選びます。一本一本手刺しで仕上げてもらいました。そのふかっとした踏み心地でお客様をお迎えできます。
何度も打ち合わせを重ねてつくる工芸的な仕事は楽しく、日本の旅館には欠かせないものです。確実で美しい技術が、あってこそのデザインであるとみなさんに感謝。

茶室「十徳」  

茶室「十徳」
「茶を科学する」というテーマで、「茶葉の量×時間×温度」の三つの条件をあげ、最適な茶を導き出す実験的な茶室。茶葉は、同じ品種であっても、土壌、気候、育成法、焙煎など、様々になります。そして淹れ方によっても、その味や香りが変わります。そんな茶葉の最適な淹れ方を披露します。
そのための道具として、いろいろな実験茶器をつくりました。

  • 茶室「十徳」
  • 有機の茶農家でもあり茶師でもある北野氏 有機の茶農家でもあり茶師でもある北野氏
  • 一人分3グラムの計量器 一人分3グラムの計量器
  • 氷出し茶器 氷出し茶器
  • 左上から デキャンタ型急須/水出し急須/茶葉蒸しデキャンタ/氷出し急須 左上から デキャンタ型急須/水出し急須/茶葉蒸しデキャンタ/氷出し急須
  • 茶葉の焙煎器 茶葉の焙煎器
  • 茶碗 茶碗
別邸「一芯二葉」  

別邸「一芯二葉」
新茶の茶摘みの時には、芽と二番目の茶葉を摘みます。それを「一芯二葉」といいます。生まれたての茶葉は紫外線を浴びていないので、柔らかくカテキンも少なく甘みの強いお茶になります。とても貴重な茶葉の名前をつけた別邸は、庭付き、かけ流し温泉付きの木造平屋でつくりました。100㎡から70㎡の部屋が12室。100㎡の部屋にはサウナと水風呂がついています。いずれの部屋も奇を衒うことない落ち着きを重視しました。

  • 別邸「一芯二葉」
  • とても貴重な茶葉の名前をつけた別邸は、庭付き、かけ流し温泉付きの木造平屋
  • とても貴重な茶葉の名前をつけた別邸は、庭付き、かけ流し温泉付きの木造平屋
  • とても貴重な茶葉の名前をつけた別邸は、庭付き、かけ流し温泉付きの木造平屋
  • とても貴重な茶葉の名前をつけた別邸は、庭付き、かけ流し温泉付きの木造平屋
  • 100㎡の部屋にはサウナと水風呂がついています
  • 100㎡の部屋にはサウナと水風呂がついています
  • いずれの部屋も奇を衒うことない落ち着きを重視しました
  • 客室のオリジナル茶器 客室のオリジナル茶器
  • ペットと泊まれる部屋 ペットと泊まれる部屋
茶色の空間  

茶色の空間
お茶の色は水色と言われ、新茶のペールグリーンからほうじ茶のダークブラウンまで、栽培方法や焙煎によって様々です。空間にもお茶の色を表現してみました。ラウンジ「茶の間」の水色は、ペールグリーン。建具や柱を緑の拭き取りにしました。お茶に浸っているようなイメージになりました。大浴場は、女性側は紅茶色の洗い出しに、男性側は、緑茶色の洗い出しにしました。

  • 茶色の空間
  • 女性側は紅茶色の洗い出し
  • 男性側は、緑茶色の洗い出し
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