〈漆〉
私が工芸の仕事で最も長く関わってきたは漆です。二十代の頃から輪島、木曽、山中、越前の木地やさんや塗師やさんをまわり、漆に親しんできました。伊勢神宮の式年遷宮の漆を使った道具をまた新たに発注する仕事は大変勉強になりました。現在、漆は主に岩手県や青森県で採取されます。漆は、漆の木肌に傷をつけて、じわりと浮き出た漆を掻きとります。ほんのわずかにわずかに滲み出る液を集める作業は気が遠くなりそうです。
漆は漆の血や涙にように思えます。掻きとった漆の木は切り倒されてしますのです。今は漆掻きの職人さんがすっかり少なくなり、中国の漆が使われることが多いのですが、私は国産漆にこだわって漆を使ってきました。国産漆は伸びがよいのが特徴です。
昔読んだ民謡にいつも山から山へ漆を求めて旅をする漆かきには嫁にいくなという話があります。縄文の頃から矢じりの接着剤や櫛などの装飾品に使われてきた漆は日本の最古の工芸と言えると思います。
漆の仕事は、輪島の十 四代も続く塗師屋の大崎庄右ェ衛門さんと制作をしています。
国産漆は桶で東北から運ばれ蔵で保管されます。
2002.12
東京 銀座
「うち山」
Task
総合プランニング/コンセプトワーク/ロゴデザイン/内装・意匠設計 /サインデザイン
ショップツールデザイン
料理人の舞台をつくるをテーマに、檜の一枚板のカウンターの背景に能登の古い蚊帳を布張りした国産漆の大きな壁をつくりました。黒みを帯びた朱と溜の強いコントラストが白衣の料理人を浮かび上がらせる効果となったと思います。
うち山の個室。朱の天板は、淡路の土壁と対比して華やかな印象に。
2002.09
東京 東麻布
「万歴龍呼堂」
Task
総合プランニング/コンセプトワーク/ロゴデザイン/内装・意匠設計 /サインデザイン
ショップツールデザイン/器コーディネート
自然の素材の本質を、さらに生かすためには手が見えないように手をくわえる事をテーマに控えめな工芸空間をめざした店舗でした。大きな松の木の無垢カウンターは、店舗に設置した後に自ら拭き漆を施しました。松の木は漆の樹液をのせるとその木目が金色のように輝くように美しくなります。